Last update 12 May 2005

研究

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概要

Gタンパク質の原子レベル作用メカニズムおよびその異種間比較解析による比較Gタンパク質学の研究

分子の持つ固有情報の成り立ちや分子間の相互作用による機能の発現を量子化学的および分子動力学的見地から解明して、ミクロからマクロの間で起こる現象を明らかにする考えです。研究のモデルとしてはRas遺伝子の生成するGタンパク質Ras p21を選びましたが、その研究をベースとして、広くGタンパク質のメカニズムやその機能について解明していきます。

Ras p21の変異体により発がんが誘起されることが知られていますが、これはGTPase活性の低下に起因すると考えられています。これまでに、分子軌道法計算および分子動力学計算によって、GTPase活性反応メカニズムおよび変異体の発がんの誘起する原因について突き止めました。しかし、GTPの結合、リン酸の放出、GDP/GTP交換機構などのサイクリングの点では、その一部を解明したに過ぎません。そこで、それら全体を解明するために、タンパク質の複合体などの巨大分子をスーパーコンピュータを用いることによって解析します。

Gタンパク質Ras p21の原子レベル作用メカニズム

量子化学計算および分子動力学計算を用いて、Gタンパク質Ras p21の分子スイッチ機構、変異Ras p21の発がんメカニズムを研究しています。

Ras p21およびその活性部位の動画 (MPEG/425KB)

ここでは、Ras p21の全体像と、その活性部位でどのようにGTPase活性反応が起こるのかをタイトルにリンクされているMPEGファイルにより、動画として見ることができます。全体像の黄色の部分がGTP、緑色の部分がLys16です。活性部位の映像では、水分子がGTP中のγリン酸に配位することによってLys16を介したプロトンリレーが起こり、GTPからγリン酸が解離する加水分解反応の様子がわかります。

GTPase活性反応の計算には、Gaussian98を用い、基底関数にB3LYP/6-31G(d,p)を使用しました。また、MPEGによる動画については、FXMOLPOV-RayBerkeley MPEG-1 Video Encoder等を用いて作成しました。ウェブサイトからのダウンロードであることを考慮して、動画の画質は低くしてあります。

変異Ras p21における動的阻害メカニズム (MPEG/1.80MB)

Gタンパク質Ras p21は哺乳動物においては細胞の増殖と分化のシグナル伝達に重要な役割を担っていると考えられていて、GTPが結合しているときに活性を示し、GTPが加水分解されると不活性となります。このGTP加水分解反応では、16番目のアミノ酸であるリシン(Lys16)が重要な役割を果たしていることがわかっています。ところで、Ras p21は構成アミノ酸の一つが変異すると発がんが起こることが知られています。そこで、Ras p21についてMDシミュレーションを行ったところ、正常体では、GTPとLys16の側鎖の距離が一定に保たれているのに対し(動画: 左)、変異体では、GTPとLys16の側鎖の距離が変動しています(動画: 右)。これにより、変異体においてはGTP加水分解反応が阻害されることで過度のシグナル伝達が起こり、発がんに至ることが明らかとなりました。

MDシミュレーションの計算には、AMBER6を用い、孤立系ですべての原子間相互作用を計算しています。また、MPEGによる動画については、理化学研究所・情報基盤研究部・計算科学推進室の高幣氏に協力していただきました。

分子動力学専用計算機へのAMBERプログラムの移植開発

分子動力学専用計算機(MDM)は、大量の粒子をまとめて扱うことで、非結合系相互作用に対する計算時間を大幅に短縮することができ、理論上では、100Tflops程の性能を期待できます。それが実現できれば、自然科学、特に生体高分子を扱う分子生物学の発展に大きく寄与できることは間違いありません。そこで、現在、MDMの実用化に向け、AMBERプログラムの移植開発およびその性能評価テストを行っています。


科学随想録

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